東アジアのコクガン最前線: 一斉調査/標識コクガン観察記録収集のお願い

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澤祐介(一般社団法人バードライフ・インターナショナル東京

コクガン Branta bernicla は、ユーラシア大陸やアラスカ、カナダなどの北極海沿岸やグリーンランドなどで広く繁殖し、全世界に約50万羽が生息すると推定されています。東アジアに飛来する個体群は、亜種コクガン B.b.nigricans とされており(IOC)、約6,000~10,000羽が日本や韓国、中国などで越冬するとされています。東アジアで越冬する個体群は、ロシアのレナ川、ヤナ川の河口で繁殖するとされていますが、これまで調査はほとんど実施されておらず、渡りの経路や、東アジアにおける詳細な越冬状況は解明されていません。また、沿岸域の開発などによる影響で、減少が懸念されています(Syroechkovskiy 2006)。

これらの課題を解明すべく、日本の研究者やNGOが中心となり、衛星追跡、渡り時期・越冬期の一斉調査、繁殖地ロシアでの標識調査が実施されてきました。ここでは、それらの成果をレビューし、さらなる東アジアのコクガン越冬状況解明のために、一斉調査への参加、標識コクガンの観察記録収集へのご協力を呼びかけたいと思います(一斉調査への参加、観察記録の連絡先は一番下に記載)。

 

■ 東アジアで越冬するコクガンの繁殖地

東アジアで越冬するコクガンについては、1986年から1994年の間にアラスカを中心に約35,000羽以上のコクガンに標識が装着され、そのうち7羽が日本に飛来した記録があります(Derksen et al. 1996。図1)。しかし、アラスカで繁殖した個体は大半がカリフォルニアで越冬することが知られており、東アジアに飛来する個体は少数であると考えられています。

一方、1997年にシベリア中部オレニョク川河口で標識された22羽(Syroechkovskiy 1998)のうち、1羽が北海道で確認されています(池内 私信)。また、Shimada et al.(2016)によって2014年1月に捕獲された9羽のコクガンのうち5羽に衛星発信機が装着され、そのうち1羽が春の渡りでオホーツク海北部の沿岸にまで飛来したことが明らかになっています。また、9羽のうち1羽が2015年6月にレナ川河口近くのニーラヴァ湾において狩猟により回収されています(嶋田 私信。図1)。

これらの記録から、東アジアで越冬する個体群は、Syroechkovskiy(2006)により指摘されていた通り、レナ川周辺で繁殖する個体群の他、アラスカで繁殖する個体群も少数が飛来していることが考えられます。

図1. これまでの標識によるコクガンの回収記録

東アジアにおける越冬状況:  日本における一斉調査の結果と東アジア全体での調査の呼びかけ

コクガンは秋季に北海道野付湾・野付半島(EAAFP116)に集結することが知られていました。しかし越冬期における情報が乏しく、主要な越冬地や越冬状況はよくわかっていませんでした。そこで、道東コクガンネットワークが主体となり、日本において2014年よりコクガン一斉調査が、秋季(11月)、冬季(1月)、春季(4月)の年3回実施されることになりました。2015-2016年シーズンには、全国33箇所で一斉調査が実施され(図2)、秋季に野付湾・野付半島を中心に8,602羽が飛来し、冬季には北海道南部、東北地方で887羽が、春季の渡りでも同様に北海道野付湾を中心に2705羽が記録されました(道東コクガンネットワーク。表1)。

表1 コクガン一斉調査結果(*一部未調査地域があるため、個体数が少なくなっている)

 

図2. 日本におけるコクガン全国一斉調査の地点

これらの調査結果から、越冬期における日本での確認個体数が極端に少ないため、未解明の越冬地が日本周辺にあるか、または秋季に野付湾に飛来した後、中国や韓国、ロシアの沿海州などで越冬している個体群が存在すると考えられています(図3)。そのため、東アジア地域で一斉調査を実施することで、越冬状況や越冬地間のつながりが明らかになると考えています。

図3. 越冬期におけるコクガンの想定される移動経路

レナ・デルタ [EAAF037] におけるコクガンの標識調査

東アジアのコクガンの越冬状況、渡り経路を調べるもう一つのアプローチとして、東アジアの越冬個体群の繁殖地と推測されるレナ・デルタ [EAAF037] において、2016年6月から7月にかけてコクガンの標識調査が行われました。

本調査では、合計21羽のメスのコクガンに、番号が刻印された黄色のプラスチック製の足輪を装着されました(図4)。また、シギ・チドリ類6種31羽、セグロカモメ Larus vegae 1羽にも標識が実施されました(表2、図5、6)。

  • 調査期間: 2016年6月28日から7月12日
  • 調査場所: ロシア レナ・デルタ https://goo.gl/maps/kxbU1Kt43B52
  • 調査主体: 雁の里親友の会
  • 調査協力: ロシア科学アカデミー永久凍土研究所 レナ・デルタ国家級保護区

図4. 足輪を装着したコクガン。黄色のプラスチック製の足輪に番号が刻印されている(写真は96番)。

表2. レナ・デルタで標識された鳥類と足輪の組み合わせ

図 5, 6. 足輪を装着したセグロカモメ(左)とヨーロッパトウネン(右)

 

一斉調査への参加、標識コクガンの観察情報の連絡先

一斉調査は、11月中旬、1月下旬、4月上旬に実施されます。一斉調査への参加が可能な方、また足輪が装着されたコクガンを観察した方は、以下までご連絡いただければ幸いです。

  • コクガン一斉調査: 牛山克己 (ガンカモ類作業部会コーディネーター) mwwc@dune.ocn.ne.jp
  • 標識付きコクガン: 澤祐介 (バードライフ・インターナショナル東京) Yusuke.sawa@birdlife.org
引用文献

Derksen DV, Bollinger KS, Ward DH, Sedinger JS & Miyabayashi Y. 1996. Black Brant from Alaska staging and wintering in Japan. The Condor 98(3): 653-657.

IOC World Bird List Ver. 5.1 http://www.worldbirdnames.org/ioc-lists/master-list-2/

Shimada T, Hijikata N, Tokita K, Uchida K, Kurechi M, Suginome H, Yamada Y & Higuchi H. 2016. Satellite-tracking of the spring migration and habitat use of the Brent Goose Branta bernicla in Japan. Ornithological Science, 15(1): 37-45.

Syroechkovskiy E E, Zöckler C, & Lappo E. 1998. Status of Brent Goose in northwest Yakutia, East Siberia. British Birds 91: 565-571.

Syroechkovskiy E E Jr. 2006. Long-term declines in Arctic goose populations in eastern Asia. In: Boere G C, Galbaraith C A & Stroud D A. (eds) Water around the world. The Stationery Office, Edinburgh, pp. 649-662.

道東コクガンネットワーク ウェブサイトhttps://kokugan2014.amebaownd.com/

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